猫猫置き場

猫猫事件帖の新章をとりあえずアップするためのページ

2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

猫猫事件帖 最終章(嘘) そして怪盗はいなくなる 壱

女の声がする。耳の中にそのまま入っていって、脳を溶かすような声だ。 その声の中には喜びも、怒りも、悲しみも何もない。ただひたすらに自分の脳を揺さぶるために発せられた声だ。 なのに、何を問われたのかわからない。直前に一体何を聞かれてこんなに動…

猫猫事件帖 とある探偵の追走編 最終話

「どこまで行くつもりなのよ!!」 ハイヒールで走るのは危ないからやめた方がいいんじゃないかな。 壱川の言葉が脳裏にチラつく。それでも水守綾は走るのをやめなかった。 「止まりなさいって……言ってんでしょ!」 息が切れる。思えば自分は、明乃のような…

猫猫事件帖 とある探偵の追走編 その弐

「やられた……!」 切れる息を落ち着かせようとするものの、上手くいかない。ここまで長距離を走るのは久しぶりのことで、水守は滴る汗を拭くだけで精一杯だった。 白い猫を追いかけ走り続けたものの、浅野と水守はマンションの前で止まっていた。 猫、アシュ…

猫猫事件帖 とある探偵の追走編 その壱

「なんでこんなことになったんだっけ?」 水守綾は冷や汗をかきながら呟いた。それはあまりにも純粋な疑問だ。彼女の予定では、今日はただの当たり前で日常的なよくある一日のはずだった。 「いやーほんと、なんでこうなったんだっけ!」 浅野大洋は笑いなが…

猫猫事件帖 とある学生たちの放課後編 最終話

別荘に着いて、明乃と彰はすぐに残りのメンバーと別れることになった。 裏口から屋根に登り、二階から侵入することにしたのだ。深海たちは、今頃正面玄関の近くで隠れていることだろう。万が一明乃たちが見つかったら、時間を稼ぐ算段らしい。 「あの、えっ…

猫猫事件帖 とある学生たちの放課後編 その参

「動くな、人質がどうなってもいいのかー」 「きゃー!動かないでー!殺されちゃうー!」 目だし帽を被った深海は棒読みながら、できるだけ大きい声を出した。その腕の中で包丁を突きつけられている彰はどこか楽しそうだ。 「全員動くな!人質をとられている…

猫猫事件帖 とある学生たちの放課後編 その弐

「えっと、お知り合いなんですか?」「従兄だ」「まさかの親戚!?」「本当の話だよ」「世間は狭いですなあ!!」 はっはっはと大きく口を開けて笑いながら、木野宮は驚いている様子もなかった。 明乃は驚きを隠せずにいるが、特に疑うわけでもなく二人の顔…

猫猫事件帖 とある学生たちの放課後編 壱

「大丈夫かなあ……」 明乃は溜息まじりに呟いた。久しく感じていなかった緊張感。それ読み取った隣に立つ少女は、悪戯に笑いかけて口を開く。「意外。もっと自信家なのかと思ってた。不安?」「そんなことないもん」 少しムッとしながら、明乃は隣で堂々と佇…

猫猫事件帳 新章 最終話

「なんか、意外だな」「何がよ」 意外にも静かな返事であった。水守綾は冷静に、それでいてごく当たり前のように答えた。「君がこういうことに手を貸すのが」 頬杖を突きながら胡散臭い微笑みを向ける男、壱川遵はどこか楽しそうだった。前なら無性に苛つい…

猫猫事件帳 新章 その六

恵まれた環境で育ってきたという自覚がある。 特に不満も、不都合も、不条理だと感じることすらほとんどなかった。『学校はどうだ? ちゃんと行ってるか?』「行ってないと思う?」『いいや、お前は誰に似たのか真面目だからなあ。まあ、あんまり無理するな…

猫猫事件帳 新章 その伍

刑事になるのは、怪盗になるよりも大変だった。 それもそうだ、怪盗なんてお膳立てしてもらったようなものだから、最初から必要だったのはほとんど覚悟だけだった。 たまに、刑事よりも怪盗の方が向いていたんじゃないかと頭をよぎる。そっちの方が、好きな…

猫猫事件帳 新章 その四

自分より非力な人間なんて腐るほど見てきた。なんなら大抵の人間はそうだから、明乃にとって自分より他人が弱いことは当たり前のことだ。 どうやら普通の人間は、大男を吹っ飛ばすほどの力はないらしいし、天井から綺麗に着地することもできないらしい。その…

猫猫事件帳 新章 その参

「遅ぇな、明乃のやつ」 ふと時計を見ると、明乃が珍しくまだ帰っていないのだと気付いて思わず口から洩れる。 明乃がいないと静かだからか、集中して作業をしてしまっていたらしい。改良機を作るのにも骨が折れる。「まあ、あいつなら大丈夫か」 自分を安心…

猫猫事件帳 新章 その弐

「で、なんでお前らがここにいんだよ」 東雲 宵一は不機嫌だった。 もとより盗む予定だった絵画にはさして興味はなかった。今日は新しく作ったいくつかの試作機のテストをメインとした日だったからだ。 だが、それも妨害されたとなれば話は変わってくる。そ…

猫猫事件帳 新章 その壱

木野宮きのみはご機嫌だった。 ずさんな管理しかしていない財布の中身を昼休みに覗いたら、なんと三百円も入っていたからだ。 授業中に三百円で買えるものをひとしきり思い浮かべて、放課後になるまでに決めねばという使命に従っていたら、ノートの中身はお…