猫猫置き場

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猫猫事件帖 とある学生たちの放課後編 最終話

 

 

 

 別荘に着いて、明乃と彰はすぐに残りのメンバーと別れることになった。

 裏口から屋根に登り、二階から侵入することにしたのだ。深海たちは、今頃正面玄関の近くで隠れていることだろう。万が一明乃たちが見つかったら、時間を稼ぐ算段らしい。

「あの、えっと、彰ちゃんってさ、どうして怪盗になったの?」

「面白いことがしたかったから」

「もう!真面目に答えてよ」

 ぷんぷんという擬音語が相応しい怒り顔で、明乃は言った。彰は涼しい顔で笑っているが、本当のことは教えてくれないだろうという直感があった。

「そういう貴方は?」

「わ、私? 私はえっと、宵一さんと出会って、宵一さんが解答だったから、お手伝いしたくって。まあ、成り行きみたいなものだけど」

 話しながら二人は、当たり前のように壁をつたい、登り、二階の窓までたどり着いていた。

「学校は行ってないの?」

「学校? うん、行ってないけど……」

「そうなんだ、じゃあ、私とお揃いだ」

 彰は少し嬉しそうだった。それが何故なのかはわからなかったが、馬鹿にされているわけではないようだ。

「友達になれると思う?」

「え?」

 彼女の質問に戸惑っているうちに、ガチャリと音が聞こえる。彰が手慣れた様子で窓の鍵を外したらしい。

「あれ、もう目の前にあるじゃん」

 天井付近に備え付けられた窓から下を見下ろすと、そこには無数のショーケースと、その中に宝石やジュエリーが飾られている。

 とりあえずあの中から、目当ての品を探さなければいけないだろう。

「見たとこ警備員も見えないけど、床まで遠いね。どうやって下に行……」

 言い切るよりも明乃が動く方が速かった。明乃は狭い窓に体を滑らせ、そのまま何も考えず落下していく。

 一瞬驚いたが、しかしそうするはずだ。明乃はスカートが捲れないように抑えながら、そのままくるりと回転して音もなく床に着地した。

「ん!」

 下にいる明乃がこちらを見ながら両手を広げている。まさか、落ちたその先で受け止めると言っているのだろうか。

「……ほんと、規格外……」

 彰は脳内に、白い影を思い浮かべながら笑った。自分の常識では測りきれない人間がこの世にまだいると思うと、それだけでも楽しくて口角が上がる。

 しかし彰はマントを翻し、明乃の手を借りずに床に現れた。別にそのくらい、知恵があれば自分にだってできると言いたげな、しかし楽しそうな表情で。

 怪盗たちは、静かに視線をぶつけていた。

 

 

 

 


 猫猫事件帖 とある学生たちの放課後編

 

 

 

 


「彰ちゃんって、どうしてセーラー服にマントなの?」

「可愛いから」

「そっか、確かに可愛いね、これ」

 お揃いの衣装を着ながら、明乃と彰は広い部屋にあるショーケースを見回っていた。写真で見たものと同じ、真っ赤な宝石を探して。

「さっきの話だけど」

 ぎこちない会話ではあったが、明乃は彼女に話し続けた。彼女の内側を知ることで、何かが変わるかも知れないと思ったからだ。

 木野宮に害をなそうとする人間なのだと、ずっと思ってきた。実際に彼女はあの常盤社の仲間であり、木野宮をある目的で誘い出したこともある。

 その真相を明乃は知らない。彼女がどういう経緯で常盤社の元にいて、何を考えて怪盗をしているのか。そこに理由があるのかどうかすら、明乃は知らなかった。

 だが、本当に木野宮に害をなそうとしているだけの人間なのだろうか?

 明乃は疑問に思ってしまった。彼女の一面はあまりにも普通の女の子だったからだ。それに、木野宮が自分に危害を加える人間に、友達だと言うだろうか。

 いや、言いそうだから怖いんだよなあ。

「学校行ってないの? 彰ちゃんも」

「在籍はしてるけどね。もう長らく行ってないよ、つまんないもん」

「つ、つまらないから行かないの?」

「うん」

 話しながらも二人の視線の先はバラバラだった。ショーケースを一つ一つ確認して、あれも違うこれも違うとまた次を見る。

「つまんないの。人も、教えてもらうことも、全部」

「で、でも、お友達とか、好きな子とか」

「いないよ、一人も。私、学校でぼっちだったもん」

「ぼっち?」

「一人ってこと」

 彼女の声色は淡々としていた。別に嫌そうにも嬉しそうにも聞こえない。聞かれたことに答えているだけの、そんな声。

「ずっと一人だった。家でも、学校でも」

 別に、悲しそうには聞こえなかった。どちらかと言えば、受け入れているような、そんな雰囲気だった。

 明乃はそれが理解できた。何故なら自分もそうだからだ。学校に行かず、家には誰もいなかった。だがそれを悲しいと思ったことはない。そのすべてを、受け入れてしまっていたから。

「……えっと」

 言葉を選ぼうとする。だけど人とそんな話をしたことがなかった。だから困った。自分から伝える言葉の最善も、それを相手がどう受け取るのかもわからない。

「慰めてくれなくていいよ、だって今楽しいんだもん。だから気にしてない」

「そ、そっか」

 ぎこちない返事。同調すれば分かり合えただろうか。木野宮のように友達だと言えるようになっていただろうか。

「あっ」

 考えているうちに、先に探し物が見つかった。明乃は目の前にある宝石が、写真で見たものとそっくりであることに気づいて声を出す。

「あったよ彰ちゃん!これだと思うんだけど、確認してもらってもいいかな?」

「ん、わかった。じゃあそれ確認したら持って帰っ……」

 彰が言葉を失ったのには理由がある。それは単純な驚きだった。

 普通、警備員もいないこんな部屋で疑うべきことはいくつかある。一つはカメラの設置。しかしこれは事前に深海から情報の共有があり、今頃深海がカメラの映像を差し替えてくれるはずだから問題はない。

 もう一つは人感センサーなどのトラップ。彰が今までいた現場ではよくその手のトラップがあった。そう例えば、ショーケースに手を触れると……

「待っ……!」

「え?」

 そんな怪盗の基本とも言えることを何も考えずーーー……明乃は、ショーケースに手を置いてしまった。

「あ、ああああ!?」

 けたたましくサイレンが鳴り響く。明乃の絶叫がかき消されるほどに大きなサイレンが。次いでバタバタといくつもの足音が聞こえてくる。待機していた警備員たちが時期にここにやってくるだろう。

「あ、あ、あわあわあわあわあわ!ご、ごめんなさあああい!」

「いいから貸して、あと落ち着いて!」

 彰は明乃の元へ駆け寄った。ショーケースに自身のマントを被せ、そのままひらりとマントを翻せばマジックのように中から宝石が出てくる。

 本物かどうか確認する暇もない。次第に足音は大きくなり、ついに広間の扉が乱雑に開けられた。

「動くな!!!」

 複数人の男たちが入ってくる。スーツにサングラスをかけた、いかにもな男たちが。

 彰は宝石をポケットに仕舞った。今から天井の窓まで登って逃げるのは無理だ。そうなると正面を突っ切るしかない。

「あわ、あ、どうしよう彰ちゃん!」

「……まあ、仕方ないからぶっ飛ばせばいいんじゃない?」

「倒しちゃっていいの?」

「いいよ、だって知らない人だもん」

 男たちは狼狽えていた。何故なら、そこにいたのは想像していたような人間ではなく、無害そうに見える少女たちだったからだ。

「いいか、動くなよ。そのままじっとしてろ」

 と、言われて動かないわけがない。

 明乃は男の忠告を完全に無視して前に飛んだ。ショーケースを踏み台にして更に飛び上がり、軽やかに男の前に着地する。

 男は驚く暇もなかっただろう。明乃は全力で振りかぶって男の腹を殴った。

「ごめんなさい!」

 両手を合わせて吹き飛んだ男に謝るも、もう意識はない。通常殴られて人間が吹き飛ぶ限界距離の記録更新を見てしまった男たちは、額に冷や汗を浮かべている。

「つ、捕まえろ!捕まえるんだ!!」

 男たちが明乃に襲いかかる。だが、通常の人間が敵うわけもない。訓練を受けていて、多少普通の人間より強かったとしても……それは、明乃にとって一般人となんら変わらない。

「ごめんなさああい!!!」

 叫びながら明乃は一人残らず吹き飛ばした。彰はそれを見届けてから扉の前に立つ。

「早く行こう、さらに来ちゃうかも」

「そ、そうだね!早く出ないと、みんなも心配しちゃうし」

 彰が扉を開く。屋敷の間取りはもう頭の中に入っていた。どこから脱出するかはすでに考えてある。

 その経路を脳内で辿りながら扉を開けたからだった。扉のすぐ向こうに、人の気配があることに気が付かなかったのだ。

 それはただの慢心だった。扉が開いた瞬間、目の前にスーツの男が立っている。彼も警備員の一人だろう。男の手にはスタンガンが握られており、それは彰に向けられている。

「彰ちゃん!」

 避けるのは簡単だった。慢心していたとは言え、驚きもしなかったし恐れもしなかった。いつもなら危ないなあ、なんて軽口を叩いてひらりと避けていただろう。

 だけど彰は避けられなかった。

「……? …………?」

 彰は何度も瞬きを繰り返す。気付いた時には、彰は明乃の腕の中にいた。そしてその明乃は、彰を抱き寄せたまま男に容赦ない蹴りを突きつける。

「彰ちゃん!大丈夫!?」

 男が吹き飛び、視界から外れる。見上げるとそこには、心底心配している明乃の顔が間近にあった。

「……王子様みたい」

「へ!?」

「ふふ、あはは、すごいね、王子様みたい!」

「な、な、なんで!?」

 彰は、心底楽しそうに笑った。困惑している明乃の手を取る。また視線の先から追加で足音が忙しなく聞こえてきた。

「ありがとう、明乃ちゃん」

 あまりにも、普通の少女のような。まるでもう、元から友達であったかのような。

 そんな笑顔に照れ臭くなりながら、明乃は彰の手をギュッと握って、廊下を駆け抜けた。

 

* * *

 

「たのもーーーう!!!」

 ピンポーン。

 チャイムを鳴らしながら、木野宮は大声で叫ぶ。しかし返事はない。だが屋敷の中からはドタバタと騒がしい音が聞こえてくる。

「むう、返事がありませんな」

「見つかったみたいだし追いかけてるんだろ。勝手に入るか」

「それは不法侵入ですぞ!!?」

「どさくさに紛れたら許されるだろ」

 深海と木野宮は、別荘の玄関前にいた。サイレンが聞こえてきたのでどうやら二人が見つかったのだと察してやって来たのだ。

 木野宮はもう一度チャイムを鳴らす。返事がないのだ、もう一度。更にもう一度と繰り返していると、痺れを切らしたのかついにインターホンから男の声が聞こえて来た。

「なんだ!?今は忙しいんだ!!帰れ!!」

「豊永さんですか?」

 深海は食い気味に行った。豊永とは、佐々木を騙した男名前だった。

「実は、予告状が届いたんですよ、ついさっき。この別荘にある宝石を狙うって書いてたんで、急いで駆けつけたんです。どうやら手遅れみたいですが」

「何!? 予告状だと!? おい絶対逃すなよ!!俺は客人の相手をする!!」

 インターホンの向こうで怒鳴り声を上げながら、男は相当怒っているようだった。

 しばし待っているとやたら広い玄関から、写真で見た男が出てくる。

「貴様ら警察か!? なぜガキがいる!!」

「ああいえ、俺らは探偵でして、これが例の予告状……」

「ふん!!」

 豊永が、深海の手から封筒を手荒に取り上げる。中身を見てわなわなと震え始めたかと思えば、目の前で思い切り破り捨てられた。

「探偵だと!? どうせ役に立たんだろう!こんなガキまで連れて!!」

「彼女をご存知ないんで」

「ねえよそんな頭の悪そうなガキ!!」

「木野宮きのみ!!職業は名探偵です!!」

「木野宮……?」

 豊永が止まる。どうやら流石の彼も木野宮探偵のことは知っているらしい。深海の口振りから、無関係ではないことがわかったのだろう。

 だがそれを確かめる間もなく、深海は豊永に近寄った。

「犯人は俺らが捕まえるんで、預からせてくれませんかね。……まあ、そもそも警察には行けないだろ?」

 静かに耳打ちすると、豊永は深海を睨み付けた。だが、木野宮も深海も平然としている。

「豊永様!!逃げられました!!」

「何!?」

 奥からスーツ姿の男が走って来た。汗だくになりへとへとになった男は、申し訳ありません!と何度も続ける。

 豊永はしばし黙って、それから深海を一瞥した。

「……任せられるのか?」

「ああ、奴らのことはずっと追っていたんだ。任せて欲しい」

「報酬は」

「後払いで結構だ」

「フン………」

 彰と明乃を追いかけているであろう男たちの声が、徐々に遠くなっていくのが聞こえる。

 豊永は深海から名刺を受け取り、乱暴に扉を閉めた。半ば締め出されるような形で、二人はまた玄関前で顔を見合わせる。

「いっけんらくちゃく?」

「まだ早い……が、まあ、ほとんどそうかもな。どうやら警察には行けない事情があるみたいだしな」

「彰ちゃんと明乃ちゃん、大丈夫かな?」

「大丈夫だろ、あの二人なら」

「そっか!うん!わたしもそう思う!」

「帰るか」

 言って、二人は佐々木の元へ向かった。落ち合う予定のカフェは、ここからまだ三十分は歩かないといけない。


* * *


「ほ、ほんとうに盗ってこれたのか」

「アクシンデントもあったけどねえ」

「うっ、ごめんなさい……」

 可愛らしいハンカチに包まれた宝石は、人生で手にすることを許されないような気分になる大きさだった。佐々木はカフェでそれを開く気分になれず、ぎゅっとハンカチごと握りしめている。

「カマかけたんだが、やっぱり警察には行かないみたいだ」

「そりゃそんだけ真っ黒なことしてたら、警察に入られたら困るだろうしね。後は任せていいんでしょ?」

「ああ」

 各自頼んだハンバーグやパスタを食べながら、すっかりオフモードに戻っている。服を着替え直した明乃は、ナポリタンを口いっぱいに入れながら深海を見た。

「任せちゃっていいんですか? その……結構暴れちゃったけど……」

「大丈夫だ、気にするな。オッサンもな」

「で、でも一体どうするんだ、この先」

「それは俺が金に変える。後のことは……まあ、数日後新聞でも買って確認してくれ」

 深海はステーキを口に入れて、腕についたアップルウォッチを操作した。

「これにて本当に、いっけんらくちゃくですな!よかったね、おじさん!」

「あ、ああ、本当に……」

 佐々木が涙ぐむ。驚きなのか、安心なのか、自分でもよくわからない感情でいっぱいいっぱいになった。

「本当にありがとう!」

 ゴン!とテーブルに頭をつけて、佐々木は泣きながら大声で言った。木野宮はうんうんと大きく頷いて、深海と同じステーキを頬張る。

「この金で、新しい商売でも始めるよ。今度は真面目にコツコツやっていく、もう二度とあんなことはしない」

「それがいいね、おじさん優しすぎるもん」

 自分の皿に乗っていたパンケーキを食べ切って、彰は立ち上がる。どうやら一足先に帰るようだ。

「今日は、まあ暇潰しくらいにはなったかな。また会おうね」

 お会計よろしく、と深海の顔を見て、彰が去ろうとする。木野宮が引き止めるわけでもなく、またねーー!と手を振りながら言う。

 明乃は焦っていた。何に焦っているのかはわからない。だが、まさか彼女がこんなにあっさり帰ると思っていなかったのだ。

 せめて駅までは一緒にいるものだと思っていた。何か言わなければいけない気がする。だけどやはり、明乃はその答えを知らない。

 彼女にもいろいろあるのだろう。いろんな過去と、事情が。そしてそれは、考え方や道筋が違っても、明乃と全く違うものではない。

 それを知ったところで、どうすることもできない。彼女が木野宮を傷つけようとした事実も、木野宮が彼女を友達だと言うことも、何もかも受け入れられないままだ。

 だけど、何か言わなければならない気がする。

「待って!」

 正解はなんだろうか。

 彼女の過去に寄り添うことか。彼女の選択を尊重することか。そのどれもまだ、知らないことが多すぎてきっと難しい。

「あの、えっと、彰ちゃん」

「どうしたの?」

「な、なれるよ!」

 だから明乃は、自分の言いたいことを選択した。言わなければいけないことではなく、自分のしたいことと、言いたいことを。

「な、なれるよ……その、友達!きっと、これから……なれると思うよ」

 少なくともそうなれるなら、そうなりたい。

 彰は驚いたように目を見開いて、少ししてから笑った。深海は気にせずステーキを食べているし、木野宮は腕を組んでうんうんと頷いている。

「そう」

 しかし彰の返事はシンプルだった。たったそれだけ返して、そのまま去っていく。

 明乃は結局、自分の言葉が伝わったのかもわからないまま、またフォークを手にした。

「……青春だなあ」

 佐々木が呟く。木野宮だけは変わらずにこにこ笑っている。彼女からすれば、もう二人は友達のようなものだった。

 だが、それを言わなかったのは、口の中に収まり切らないほどのステーキが入っていたからである。

 

 

* * *

 

 

「ただいまー!」

「おかえり、きのちゃん」

 宮山紅葉は新聞を読みながら、忙しなく靴を脱いでリビングまで走って来た木野宮を迎えた。

 最近は学校から帰って来る前に遊ぶことも多いらしく、遅い時間に帰って来ることもしばしばある。

 まあ、遅い時は大抵知り合いの怪盗が一緒だからさして心配はしていないのだが。そういえば先日もやたら帰って来るのが遅かった日があった。そういう日は外食をしてくることもあり、その日なんてステーキを食べたと言われたのだから少し寂しい。

「今日は何か事件あったー!?」

「ん、読む?」

「読まない!!」

「だよねえ」

 一瞬新聞を差し出すも、すぐに拒否されて宮山は新聞をテーブルに置いた。今日の見出しはとある悪徳会社が一斉検挙されたという事件についてだ。

「あ!これ!」

 その記事が視界に入ったのか、木野宮が指差して珍しく新聞を見ている。

「気になる?」

「うん!」

 特にこういう事件について気にするのは珍しい。もしかしたらこれも成長なのかもしれない。

 宮山は感動しながら、事件のことについて書いてあった限りのことを話した。

「謎の人物から警視庁にリークがあったんだって。ここを調べたら違法な宝石やらなんやらが、めちゃくちゃ出て来るぞってさ」

「ふんふん」

「それで調べてみたら案の定、その中に闇オークションだとか騙し取っただとか、いろんなものが出てきた挙句、会社自体に詐欺容疑もかかって」

「ふんふん!!」

「その会社を運営してた豊永って人と、会社に関わって人間全員捕まったって話」

「ふんふんふん!」

「ちゃんと聞いてる?」

 木野宮がもう一度新聞を見る。見覚えのある別荘の外観に、知った顔の男がそこに印刷されていた。

「ふっふっふっ」

「?」

「また世界を救ってしまったぜ……」

 木野宮の独り言に、宮山は呆れるように肩をすくめる。どうやら木野宮は、宮山が知らぬうちに世界を救ったらしい。

 それが果たして妄想なのか、現実なのか、宮山の知れることではない。

「まあ、こういうのはきのちゃんがやるべき事件じゃないから、くれぐれも巻き込まれそうになったら逃げるように」

「はーい!」

 木野宮は元気な返事をした。なんとなくこれは秘密にしておこうと思った。なぜなら、その方がヒーローみたいなでかっこいいからだ。

 たったそれだが、木野宮きのみは上機嫌だった。彼女たちと自分だけが知る、秘密を思い浮かべてはにやにやすることを何度も繰り返して。

 早く、今にでも楽しいことが起きないかとまた目を輝かせて探している。