2025-01-01から1年間の記事一覧
「……ちくしょう、ちくしょう……」 一人で過ごすには広すぎる部屋の隅っこで、男のすすり泣く声が響いていた。 いや、別に最初は良かったのだ。 相棒のピンチに、知り合いの女子高生怪盗がついているというなら安心だろう。 そのくらいの気持ちで、たまには一…
「社さんって、ダンスできる?」「例のホテルの件ですか」「…………」 何も話していないはずなのに、すべて知っているかのような顔で微笑む影――常盤社は、一層不機嫌な顔になった黒堂彰を見て「これは失礼」と思ってもない言葉を口にした。 話は数日前に遡る。 …
「残念なお知らせだ」「…………」 と、言いながらも大して残念そうに思っていない顔で、壱川遵はコーヒーに口をつけた。 対面に座る深海京佑はやっぱり、と言いたそうな顔をしていて、壱川は慰めの代わりに苦笑いを見せる。 とある喫茶店の穏やかな午後。 テー…
モニターに映る文字列を追いながら、何度も確認するように瞬きを繰り返す。 この仕事を始めてから起こったトラブルの数々を思い出すが、いずれにも当てはまらないケースに心臓が徐々に早くなっていくのを感じた。 シンプルな脅迫文を何度も読み返して、それ…
震えていたのは、先頭に立つ男ではなかった。 会話がないのも仕方がない。この場に連れてこられた青年たちは、誰もが緊張感のあまり互いの目を見やって同じことを思っている。 ――どうにかして、この場から逃げ出せないか。 そんな情けなくも正しいことを。 …
少年は思い描いていた。 自分だったらどんな衣装を着て、どんな演出をするだろう。 その時間は何事にも代えがたいほど楽しかった。 もともと機械をいじるのは好きだったから、今できることの範囲で最大限のものを考えてみる。意外と実現できるんじゃないか、…
「……おや?これは……」 常盤社は珍しく、目を丸くしてテーブルを見つめていた。 それすらわざとらしく思えて腹が立つので、無視を決め込むことにする。 怪盗たちの隠れ家、その中にある広いリビングルームで黒堂彰は頬杖をついていた。 テーブルには、学校か…
「んっふっふ〜。今日のばんごはんはなんだろな〜♪」 木野宮きのみはご機嫌だった。いや、ご機嫌じゃない日なんてそうそうない。 今日も今日とて授業は聞いていなかったし、居眠りしていたら怒られたし、放課後の予定なんてなんにもなくても。 それでも木野…
「で、なんでアタシなのよ」 水守綾は疑問を口にしたものの、言った瞬間に予想がついてしまっていた。 「一緒に大学に来てくれないか」と頼まれたときは疑問符でいっぱいだったが、どうやら宮山は調査に同行してほしいらしい。大方、大学に一人で入りづらい…
東雲宵一は逃げ惑っていた。 今日も今日とて街を騒がしてやろうと企んでいる怪盗その張本人だというのに、何を間違えたか今日は追われる立場に他ならない。 ―どうしてこんなことになった? つい先ほどまではあくどい笑みを浮かべて、目の前に鎮座する美術館…